コラムCOLUMN

CES2022特別レポート1 ~ CES2022はハイブリッド開催
宇宙・メタバース・NFT・デジタルヘルスが盛況

海外動向

清水 計宏

Web Summitがオンラインプラットフォームを提供

 世界最大のテクノロジーの一大イベントであるCES 2022が、1月5~7日までの3日間、米ラスベガスで2年ぶりに対面形式で開催された。新型コロナ感染症(COVID-19)のオミクロン株が猛威をふるうなか、当初より会期は1日短縮された。リアル出展のキャンセルが相次いだが、オンラインでの併催を決めていたことが、全面的な中止を抑えるセーフティネットになった。
 主催者のCTA(Consumer Technology Association:全米民生技術協会)によれば、世界からスタートアップ800社を含む2200社超(2020年開催4419社の約半数)が出展。そのうち米国が約1300社、韓国は416社、フランスから247社、中国からは159社となり、韓国企業の存在感が強まった。出展者の約40%がスタートアップだった。スタートアップが集結し、新サービスやアイデアを競うEureka Park(エウレカパーク)には約800社が参加した。リアルな来場者数は、1800人の報道関係者を含めて約4万人となり、2020年開催時の約4分の1以下となった。韓国企業は、ポストコロナ時代を見据えて、競争力強化のため、あえてリアル参加にこだわった。サムスン電子のハン・ジョンヒ副会長が開幕式に出席し、基調演説のステージに立った。Hyundai(現代)グループ会長のチョン・ウィソン氏もプレスブリーフィングで自らプレゼンテーションした。

 ハイブリッド開催となり、デジタルプラットフォーム=写真=には、ポルトガルのリスボンに本拠を置くWeb Summitが、構想から約10年かけて開発したSummit Engineが組み込まれ、フィジカルイベントとデジタルイベントの両方で、モバイルアプリやWebからアクセスできるようにした。これにより、CESの出展企業・出展者、参加者は互いにつながることができた。企業はプロファイルを設定すれば、チャットやビデオ通話、Mingle(モバイル・ソーシャル・チャットルーム)で参加者とつながり、スケジュールを設定すれば、リアルかバーチャルで会うことができた。

 コンファレンスは40セッションを超え、その多くはオンラインでライブストリーミングされた。配信は高画質の4チャンネルで、だれが同時に見ているか、オーディエンスの名前が一覧表示された。チャットの書き込みができ、パネラーや運営者は、オーディエンスにチャットで語りかけられた。展示会場の様子も、オンラインの進行役が、ハイテンションで各ブースをランダムに見て回り、面白そうなところは担当者にインタビューした。主要言語の字幕設定もでき、登壇者やパネラーの話の内容によって、感情・意思を表すマークで反応できた。主要セッションは2022年1月末までアーカイブ視聴が可能。

 CES2022の開幕に先だち、1月3日には報道・メディア関係者向けに、注目製品・サービスを集めた「CES Unveiled(アンベイルド)」がプレビューされた。ここでは、140社超が出展し、600超のメディアが取材した。 米Bryght LabsのクリエーターのJeff Wigh氏が考案したAI指南のスマートなチェスボード(ChessUp)=写真=や仏Naio Technologiesの ブドウ園専用ロボット「Ted」のほか、仏Oledcommからインターネットを光で運ぶ「Light Fidelity」(Wi-Fiの100倍)を搭載したAndroid OS対応「LiFi タブレット」、仏Baracoda Daily HealthtechからBMotionセンサーにより数回振るだけで充電できるバッテリー不要のBluetooth対応体温計「BCool」、米Moenからジェスチャーと音声操作で操作する「スマート蛇口」がそれぞれ披露された。

 また、仏MoonBikesの世界初の電動スノーバイク、米SureCallの家庭向け5Gセルシグナルブースター「Fusion4Home Max」、デンマークGNグループのJabra(ジャブラ)からBluetoothマルチポイント対応の完全ワイヤレスイヤホン「Jabra Elite 7 Series」などが関心を集めた。

宇宙技術、サステナビリティ、メタバース、NFTが前面に

 CES2022は、その時々のトレンドと近未来の先取りをして成長してきた。社会と企業、個人の関係性が急速に変化するなか、産業構造がコンシューマードリブン(消費者主導)になったことをいち早く察知し、家電のジャンルにこだわらずに、コンシューマーテクノロジー全般をターゲットとしながら、勢力を拡大してきた。ゲーム、コンピューター、IoT、モバイル通信、自動車などを取り込み、テクノロジーショーへと変貌した。コロナ禍で医療やヘルスケアがコンシューマードリブンになったことから、デジタルヘルスやフィットネス、リモートケア(リモート医療)にもかなりなウエイトがかけられた。

 人類にとって地球環境が悪化するなか、月面・惑星移住が視野に入り、宇宙旅行が夢物語ではなくなった。宇宙ステーションでの居住や宇宙決済を含むSpacetech(宇宙技術)=写真(Dream Chaserのレプリカ)=がクローズアップされ、サステナビリティ(持続可能性)やグリーンエコノミー(循環経済)への取り組みも広がっている。その一環で代替食材や代替エネルギーとともに、メタバース(ソーシャルVR)、NFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)といった仮想的な経済圏も取りこまれている。 もちろん、クラウド型およびエッジ型を含むAI (人工知能)、ロボティックス、量子コンピューター、DX(Digital Transformation)、5G (第5世代移動通信システム)、ロボット&ドローン、電動垂直離着陸機(eVTOL)、EV&自動運転車(ロボットタクシー)、スマートシティ/ホーム/デバイス、XR(AR/MR/VR)、ブロックチェーンとともに、Femtech、Babytech, Beautytech, Agetech, Sleeptechといったジャンルは定番である。

 すでにAIと5Gはさまざまな業界に行きわたり、遍在化している。例えば、米Skydioのドローン「Skydio 2+」にも更新されたAIが搭載され自律飛行を向上させた。ジェンダーパリティ(社会・文化的性別公正)やレジリエンス(回復力・復元力)も通奏低音のように全体に響いている。CES 2022において、多くの企業がコンファレンスや記者会見の冒頭に、地球環境保護への取り組みやゼロエミッションの責任、エコロジカル・フットプリントについて語り、生物多様性と地球の未来へ希望をつなげていた。全体として、人類が直面する課題・問題に解決の糸口を見いだそうとしており、地球と社会を再構築するイノベーションに、ことのほか力が入っていた。

米Beyond Imaginationのヒューマノイド「Beomni 1.0」も出展

 「空飛ぶクルマ」のフライングカーが年ごとに現実味を帯び、試験サービスも始まっているが、CES 2022の展示内容は宇宙にまで広がった。LVCC(Las Vegas Convention Center)の野外展示場では、民間宇宙企業で米Sierra Nevada Corporation(SNC)の子会社である米Sierra Space(シエラスペース)が実物大のスペースプレーン(航空機型宇宙船)「Dream Chaser(ドリームチェイサー)」のレプリカ(約9.1m)に加え、月面移住者向けのインフレータブルハウス(空気注入式バウンスハウス )「LIFE」の模型を出展した。LIFEは、打ち上げ時はロケット内に折りたたまれているが、月面で3階建に膨らみ、最大4人を収容できる移住モジュールである。
 Dream Chaserは、国際宇宙ステーション(ISS)に物資を輸送する任務のほか、宇宙旅行などに活用される予定。Sierra Spaceは、2020年代の後半に民間宇宙ステーションを軌道に送り込み、ISSへ貨物輸送サービスを開始する計画。Dream Chaserは、一般的な民間ジェット機に対応する1万フィートの滑走路で離陸でき、FAA(米国連邦航空局)の認可を受けた着陸地点であれば、どこにでも着陸できる。Sierra Spaceは、米Amazon.com創業者のジェフ・ベイゾス氏が設立した航空宇宙企業のBlue Origin(ブルー・オリジン)と共同で、地球低軌道に商業運営の宇宙ステーション「Orbital Reef(オービタルリーフ)」を設計している。

 また、無重力の個人向けフライトのチャーターを提供するZero-Gは、CES2022のSpacetechのブースでHTCのVRヘッドセットを使って、ISSの様子や宇宙空間の疑似体験ができるシミュレーションゲームを提供した。ブースでは、米Beyond Imaginationが開発したAI搭載で遠隔操作ができるヒューマノイド「Beomni 1.0」=写真=も出展された。これは、頭部は白く、ボディが青色で、クラシックな感じのするデザインの人型ロボット。片腕で15.88kgまでの重量を持ち上げられ、調理時に塩をつまむなどの繊細で微妙な作業もできる。底面には4輪がついており、砂、泥、雪でも移動できるようになっている。上半身は、人間がVRヘッドセットなどで遠隔でフルコントロールすることができる。医療アシストや農作業など、さまざまな作業ができるとしている。Zero-Gは宇宙空間での作業で人間をサポートすることを想定している。

米Touchcast は業務用メタバース「MCity」をリリース

CES2022では、メタバースやNFT、XRといった仮想世界が前面に押し出された。メタバースは、没入感のあるデジタル体験を与えるだけでなく、多層化、多重化する方向性を示しながら、フィジカルリアリティとリンクして、現実世界を拡張し始めている。 
 ブロックチェーン上に保管された独自のデジタル資産であるNFTは、2021年からトレンドとなり、コカ・コーラやキャンベル・スープなどが、メタバースとNFTを組み合わせた実験的な取り組みを始めている。
 メタバースが急浮上した要因として、Meta(旧Facebook)の攻勢が影響している。もちろん、それだけではなくコロナ禍での日常生活への疲れや面白みが奪われたことに加え、能力主義の競争に疲れた人びとが自らの居場所として仮想空間へ向かったことなども作用していると見られている。

 米ニューヨークに本拠を置くTouchcast(タッチキャスト) は、エンタープライズ・メタバース「MCity」=写真=を発表した。これは、米Epic Games(エピックゲームズ)のリアルタイム 3D 制作プラットフォーム「Unreal Engine」や米NVIDIAのAIとクラウドGPU、アイルランドに登記上の本拠を置くAccenture(アクセンチュア)のソフトウェアエンジニアリングサービスなどを用いて、Microsoft Cloud Platform上で、「Metaverse as a Service(MaaS)」としてサービス提供を開始した。 DNS(Domain Name System) のように <.metaverse> ドメインを登録して 、3D 構造のフォトリアルな仮想空間を生成し、そこでイベントや会議・セミナーなどを催すことができる。NVIDIA GPUとMaxineソフトウェアを搭載しており、Microsoft Azureでクラウドベースで3D レンダリングをして、Microsoft Teamsをゲートウェイとしてシームレスに統合している。

 このメタバース空間のディレクトリは、ブロックチェーン上でホストされており、Touchbase のアプリには限定されずに、オープンで分散したメタバースのドメインネームシステムを目指している。
 このプラットフォームを使い、CES 2022と連動して、「Metaverse Summit」がバーチャルとリアル(中央広場テント)でハイブリッド開催された。このセッションには、米MicrosoftのCDO(最高デジタル責任者)のAndrew Wilson氏、NVIDIAの「Omniverse(オムニバース)」プラットフォーム開発部門副社長のRichard Kerris氏を含む20人超の業界リーダーが出席した。
 MCity は、NVIDIAのメタバース開発プラットフォームである Omniverseを使って制作されている。NVIDIAは、この仮想コラボレーションとリアルタイムシミュレーションができるツールを、CES 2022を機にNVIDIA製GPUを使用しているユーザー向けに無料提供することを発表した。 Omniverseは、2021年にオープンベータ版がリリースされており、2021年11月から企業向けに有料提供されてきた。

米P&G/Beauty部門がメタバース「BeautySPHERE」を立ち上げ

 世界最大の一般消費財メーカーP&Gのビューティ部門であるP&G Beauty(ビューティ)は、CES2022でメタバース「BeautySPHERE」の立ち上げを発表した。  BeautySPHEREでは、ライブ配信やシミュレーション・コンテンツを通じて、来場者が仮想空間でP&G Beautyブランド・ポートフォリオを探索することができる。P&Gのサステナブルプラットフォーム「Responsible Beauty(レスポンシブル・ビューティ)」の理念と精神に基づき、参加者は英ロンドン南西部のキューにある王立植物園「Kew Gardens(キュー・ガーデンズ)を仮想で訪問でき、P&Gの科学者と植物園の専門家が協力して、「ハーバル・エッセンス・ビオリニュー(bio:renew)」の製品に使われている植物の適切性と高品質をどのように確認しているかを知ることができる。

 この体験の一環として、参加者は自分の植物原料の鑑定ができるだけでなく、ベストセラー作家で、慈善家でパンテーン大使でもあるKatie Piper(ケイティ・パイパー)氏から案内を受けながら、自ら発見した植物について教えてもらうことができる。Katie Piper氏は、海外で問題化しているアシッドアタック(強酸性の液体をかける迷惑行為)防止に向けた啓発活動をとおして、独自のレスポンシブル・ビューティの原則を唱えている。

 さらに米広告代理店のWunderman Thompson(ウォルター・トンプソン)は、メタバースプラットフォームのOdysseyと提携し、クライアントが世界のマーケティングトレンドを調査するためのメタバースを発表した。Odysseyは、オンライン3D世界を実現するオープンソースのWeb3メタバース「Odyssey Momentum」を構築している。これはユーザーが利用できるオープンネットワークで、アバターを使ってコラボレーションしながら、さまざまな動作や活動ができる。このプラットフォーム上に特設のメタバースを設営し、クライアントがメタバース・マーケティングをしながら、さまざまなトレンドを調査する。デジタル領域には、さまざまな作業空間「Inspiration Kiosk(インスピレーションキオスク)」が用意されており、代理店から調査レポートを提示したり、技術的な洞察に関する情報を提供するために使用される。Wunderman Thompsonは、2021年にリリースした報告書「Into the Metaverse」では、メタバースとは何かから、メタバースが人びとの生活をどのように変え、新たな機会を生み出しているのか、ブランドが注意を払う必要がある理由などについて解説している。

米InWithからメタバースをにらんだ柔軟な電子コンタクトレンズ

 米InWithは、ウェアラブル型の究極のメタバースとして、ソフトコンタクト素材のヒドロゲル材を使い、柔軟性のある電子コンタクトレンズを発表した。内部に微細なコンポーネントが組み込まれており、モバイルデバイスのXR/メタバースアプリと連携しながら、視力機能を向上させることができる。すでにFDA(米国食品医薬品局)の認可を取得している。2022年第1四半期にも市場投入される予定。まばたきから給電する方式を採り、 外しているときも充電できる液体スマートケースが付く。大手ソフトコンタクトレンズメーカーのBausch & Lombの協力を得て開発した。  InWithは、製造プロセスにおいて、材料を膨張・収縮させることにより、固体コンポーネントと回路をヒドロゲル材料に統合する技術を研究して特許を取得。これにより、コンタクトレンズや眼内レンズ用ディスプレイに回路を統合して、眼科アプリケーションに使うことを実現した。

 一方、スマートコンタクトレンズを製品化している米Mojo Visionは、昨年のDigital CESにおいて世界初のARコンタクトレンズ「Mojo Vision Lens(モジョビジョン・レンズ)」を出展し、市場投入を発表している。今回、新たにAdidas(アディダス)のランニング&ウォーキングアプリ「adidas Running」のほか、コネクテッドアパレル企業のWearable X(ウェアラブルエックス)、18Birdiesのソーシャルゴルフアプリ「Golf GPS 18Birdies Scorecard」、Breakpoint Studioのスキーとスノーボード用アプリ「Slopes」、Trailforksのサイクリングとハイキングマップアプリ「Trailforks」との連携を公表した。同時に総投資額を2億500万ドルにするため、4500万ドルの新規資金調達についても明らかにした。
Mojo Vision Lensは、一般にMojo Lensと呼ばれ、光を網膜に集める小さな光学系を備えたディスプレイをコンタクトレンズの内側に装着している。ワイヤレスリンクと、目の動きを感知するモーションセンサーも搭載しており、超小型ディスプレイへのデータ送信を可能にし、ディスプレイからセンサーデータを取得する。電力およびデータシステムも搭載しており、目に直接着けるため、通常のコンタクトレンズのように角膜への酸素供給に問題はない。歩きながらターンバイターン方式により経路案内を確認できる。ターンバイターン方式とは、経路誘導(ナビゲーション)のUI(ユーザーインタフェース)で、交差点や曲がり角での進行方向を矢印アイコンやデータ、音声などで通知する。テキスト、ビデオ、画像を視野に投影することができる。

 システムに電力を供給するため、人体に安全な電力供給用の薄膜と、世界で最も正確な視線追跡を可能にするモーションセンサーが含まれている。コンピュータービジョンとシーン検出に使用される超低電力のイメージセンサーも開発。装着する一人ひとりの目にフィットするようにカスタマイズでき、装着性が高く、回転したり目の上で滑ったりすることはないという。目に供給される酸素を最大化するための特許を取得している。レンズの中心部には、世界最小サイズの高密度ダイナミックディスプレイ(MicroLED Display)が組み込んでいる。そのピクセル間隔は1.8マイクロメートル。1インチあたり1万4000ピクセルの高密度。これにより、直径0.5mm未満のパッケージにもかかわらず、鮮明なテキストや写真、ビデオを表示することが可能。

 医療への接近は、ARヘッドセットを開発する米Magic Leapにおいても見られた。2021年10月に発表したビジネス顧客向け「Magic Leap 2」は医療、製造業、軍事といったパートナー向けにアーリーアクセスが始まっている。CES2022では、臨床データ視覚化のSentiAR、神経技術開発のSyncThink、医療診断のHeru、外科用ソフトウェアツールを開発するBrainlabとのパートナーシップを結んだことを明らかにした。このうちHeruは、米マイアミを拠点に視力を診断して改善するため、AIを利用したプラットフォームを構築している。Magic Leap 2は、手術室での使用のほか、ケアを施す医師が患者にケアの疑似体験してもらう用途などの開発を進めている。
 Magic Leap 2は、50%の小型化と20%の軽量化、視野角は2倍にして、難点だった視覚角の狭さを改善した。空間認識する4基のカメラや2基の赤外線センサーを搭載。2018年にリリースしたMagicLeapヘッドセットより小さく軽く、長時間装着しても疲れないようにしている。医療のほか、トレーニングにヘッドセットを着用している軍事関係もターゲットにしている。

蘭LalalandはCES2022専用のMeta Model NFTを発売

 オランダのアムステルダムを拠点にファッションテック(Fashiontech)を手がけるスタートアップのLalaland(ララランド)は、Eureka Park内のオランダのスタートアップパビリオンに出展し、CES2022専用のMeta Model NFT(メタモデルNFT)を発表した。CESの来場者にNFTアートワークを発売したのは、今回が初めて。このNFTは、暗号資産とデジタルファッションを身に着けた仮想ファッションモデルを組み合わせた。 ここに使われている仮想ファッションモデル、デジタルファッション、ブロックチェーンは、独自の制作ソフトウェア「Genesis Meta Model Creator」=写真=を使って制作された。 CES2022では、この仮想ファッションモデルの作成ツールもリリースした。このツールを使用すると、小売業者やデザイナー、ファッションブランドは、さまざまな体型、サイズ、肌の色の仮想ファッションモデルを生成でき、広告作成のスピード化を図ることができる。このためコストを削減し、市場投入までの時間を短縮できるメリットがあるとしている。

 Lalaland は、2019年にMichael MusanduとUgnius Rimsaの両氏によって設立。AIを用いて、衣料品やファッションブランド向けのEコマースアプリケーション用にリアルなデジタル写真モデル(デジタルヒューマン)を開発する。ニューラルネットワークを活用し、人工的な人間の画像を生成。年齢、サイズ、民族を含む膨大なモデルのライブラリーからそのブランドに合った仮想モデルを生成し、オンラインで買い物する顧客が自分の要望に応じて最新のアパレルを着た姿を見ることができるようにする。
 Lalalandは、第3回Tommy Hilfiger Fashion Frontier Challenge(トミー・ヒルフィガー・ファッション・フロンティア・チャレンジ)の勝者に選出されている。このグローバルな年次プログラムの授賞は、ファッションの展望をより包括的なものにする、革新的なスタートアップを見つけ出し、支援することを目的にしている。このファイナル・バーチャル・イベントが2021年1月12、13日の両日に開催され、LalalandとUZURI K&Yが勝ち取った。受賞者は賞金20万ユーロを共同で獲得した。ちなみにUZURI K&Yは、ルワンダを拠点とし、サハラ以南のアフリカで生産された自動車のリサイクルタイヤを使用し、地元の若者を雇用する、環境に優しいシューズブランド。アフリカから世界市場へ持続可能な製品を提供するビジョンを掲げている。

 NFTはメタバースとも相性がいい。韓国サムスン電子の米法人Samsung Electronics Americaは、CES2022でメタバースプラットフォーム「Decentraland(ディセントラランド)/Mana(マナ)」と提携したことを発表した。Decentralandとは、イーサリアムのブロックチェーンを利用したメタバースであり、この中で使用できる独自トークンがManaと呼ばれている。Samsung Electronicsは、Decentralandからバーチャルランド(仮想土地)を入手し、ニューヨークにある旗艦店「837」をメタバース上でもオープンした。仮想店舗「Samsung 837X」=写真=は、「Connectivity Theater」「Sustainability Forest」「Customization Stage」という3つのスペースからなる。Connectivity Theaterでは、CES 2022関連のニュースを配信。Sustainability Forestでは、持続可能な森林開発に関するデジタル体験を提供する。Customization Stageでは、音楽バンドの Gamma Vibesのライブパフォーマンスを体験できる。

 サムスン電子は、CES2022でNFTアート作品を閲覧・購入できるNFT Aggregation Platformを発表しており、2022年に投入するスマートテレビ(MICRO LED/Neo QLED/The Frame)でNFTアート作品の閲覧と購入のほか、作成者などの関連情報やブロックチェーンのメタデータを確認できるようにする。

 CES2022では、モビリティは単に人間やロボットの移動だけでなく、メタバースにおける空間移動と仮想冒険まで広がっていることも示された。モビリティ、デジタルヘルスを中心にした内容は、次回にレポートする予定。

<つづく>

 (清水メディア戦略研究所 代表)