コラムCOLUMN

CES2022特別レポート2 ~ 仮想と現実がシームレスに
ロボットとメタバースが融合して人間世界を拡張

海外動向

清水 計宏

XR(AR/VR/MR)世界はメタバースへと拡張

 CESは、1967年の第1回から数えて56周年を迎えた、いまではエンドユーザー向けの先端テクノロジーとともに、関連する製品・サービスの動向を見極めるうえで欠かせないコンベンションとなっている。
 この大規模イベントでは、クラウド型およびエッジ型を含むAI (人工知能)やビックデータ、クラウドコンピューティング、量子コンピューター、5G(第5世代移動通信システム)にとどまらず、テック家電、XR(AR/VR/MR)、eスポーツ/ゲーム、デジタルヘルス/フィットネス(ヘルスケア、リモートケア/遠隔診療)、DX(Digital Transformation)、ロボット&ドローン、電動垂直離着陸機(eVTOL) 、グリーンエコノミー/持続可能性(循環経済、環境保護)、EV&自動運転車(ロボットタクシー)、スマートシティ、スマートホーム、ブロックチェーンといった広範なテクノロジー・トレンドを見ることができる。
 また、フェムテック(Femtech)、ベビーテック(Babytech)、ビューティテック(Beautytech)、エイジテック(Agetech)、スリープテック(Sleeptech)といった生活に密着した分野は定番になっている。それだけでなく、ジェンダーパリティ(社会・文化的性別公正)やレジリエンス(回復力・弾力)、アクセシビリティ(利用しやすさ)は暗黙のテーマになっている。
 特にCES2022においては、スペーステック(Spacetech)やフードテック(Foodtech)とともに、メタバース(Metaverse)、NFT(代替不可能トークン)がクローズアップされた。
 CESの魅力のひとつは、未来デザインやテクノロジービジョンが掲げられ、パネル討論などで活発に意見が交わされることだ。これが時代を洞察するためのヒントになる。

 先端テクノロジーというものは、真っ直ぐに発達することはなく、時流や他のテクノロジーとも作用・融合し合い、紆余曲折しながら普及するか、途中で立ち消えることもある。市場を立ち上げ、ビジネスとして継続することは生やさしいことではない。VR(仮想現実)の短い歴史を見てみても、計算機科学者のアイバン・サザランド氏がHMD(ヘッドマウントディスプレイ)に似た「ダモクレスの剣」を公表してから、すでに約半世紀が経つ。その後、「人工現実(感)」という言葉とともに、最初のブームになったのが1990年代だった。停滞期を経て、2012年にパルマー・ラッキー氏がクラウドファンディングで「Oculus Rift」を開発したことが報道されるとブームが再燃した。2014年になって、Oculus VRがFacebook(現Meta)に買収されると、第2次VRブームが巻き起きた。AR(拡張現実)やMR(複合現実)とも連携したり競い合いながら、浮き沈みを繰り返してきた。

 2020年から2021年にかけて、新型コロナ感染症(COVID-19)のパンデミックの影響を受けて、VRサービスの中で交流できるソーシャルVRが急増した。これがメタバース(Metaverse)と呼ばれるようになり、仮想空間におけるパラダイムシフトが起きている。メタバースは、もともとニール・スティーヴンスン氏のSF小説『スノウ・クラッシュ(Snow Crash)』(1992年)で初めて使われた言葉である。
 これまでのVRと異なるのは、仕事や会議、イベントといったさまざまな作業・タスクの共有や協調ができ、巨大なエンタテインメント市場を形成しているゲームの世界との融合が始まったことだ。ECサイトやデジタルツイン、NFTとも連携して、市場や経済圏が強く意識されるようにもなっている。まさに変化のただ中にある。
 CES2022においても、新しい知見やビジョンが発表され、メタバースの未来図が描かれた。

韓国Hyundaiはロボットとメタバースの融合で人間領域を拡大へ

 韓国の自動車メーカーであるHyundai Motor(現代自動車)は、CES2022において、ロボット事業により未来のモビリティ(移動体)のパラダイムシフトを促すというビジョンを示した。モビリティの役割を仮想空間にまで広げる「メタモビリティ(Metamobility)」という言葉を使い、次世代ロボット計画を発表した。

 モビリティの捉え方を広げ、実世界のEV(電気自動車)や自動運転車(ロボットカー)、ドローンだけでなく、ロボッティクス(ロボット工学)、アーバンエアモビリティ(Urban Air Mobility:UAM)、スマートシティとともに、メタバース内の移動や空間探査まで含まれるとした。Hyundaiは、制限のないMobility of Things(MoT)のエコシステムをつくることを究極の目標として掲げた。MoTとは、これまで無生物であるオブジェクトが自律的に移動できるようになり、都市部における可動コネクターとして、出発地から目的地までシームレスにオンデマンドのモビリティを実現することである。プレスブリーフィングには、Hyundai Motorグループ会長のチョン・ウィソン(Chung Eui-sun)氏自身=写真=が犬型ロボット「Spot(スポット)」を連れてステージに登場した。「ロボットは、もはや遠い夢ではなく、現実になった。だんだん人間との距離が近くなっている、いつの日か、人はスマートフォンのように、Spotを連れ歩くようにもなるだろう。Hyundaiは、ロボティクスを通して、偉大なことをなし遂げたていきたい」。

 チョン・ウィソン氏は、ロボティクスについて、人間が克服していく限界の次元を越えて、すべてのモノに移動性を与えていき、さらには仮想と現実の境界をなくしていく媒介になるだろうという、新たなモビリティビジョンを語った。それは、仕事や業務にとどまらず、生活や余暇の場面においても、人類の到達力を広げるという未来図である。
 Hyundaiは、自動車メーカーとしては世界5位にとどまる。だが、MoTを推し進め、ロボティクス分野を中核事業にすることで、世界をリードすることを目指す。モビリティの拡張に力を入れており、「スマートモビリティ・ソリューション・プロバイダー(Smart mobility solution provider)」「ヒューマンリーチの拡大(Expanding human reach)」を目指し、同業他社とは違う方向へ進み始めた。

 「メタバースは、一見、ゲームプラットフォームに見えるかもしれない。だが、メタバースというものは、現実世界の外に存在するといった単純な仮想世界ではなく、もう少し普遍化していけば、近い未来には日常生活の重要なパートを占めるだろう。技術的な観点から、私たちが持つロボティクスのテクノロジーとメタバースを組み合わせると、大きなこと成し遂げることができる。Hyundaiのモビリティソリューションは、メタモビリティと呼ぶ領域まで広げていく」。チョン・ウィソン氏は、ロボティクスは単にロボットを製造するだけでなく、ロボットに実装されているテクノロジーを強化し、顧客に新しいサービスを提供することであると強調した。「ロボットは、ハードウェアとソフトウェアを組み合わせたサイバーフィジカルシステムだ。メタバースは一種のサイバーフィジカルシステムだといえる。2つの世界をつなぐことは、私たちの野心的な目標である」現実世界のロボットを仮想現実であるメタバースに接続するとし、ロボットが人びとの時間と空間の物理的な制限を克服して、メタバースにおいてインタラクションできる手段を提供していく計画である。

惑星探索に向けたロボティクスの夢の実現へ

Hyundaiが、2021年6月に11億ドルで買収したロボティクスのスタートアップであるBoston Dynamics(ボストン・ダイナミクス)の創設者兼 CEOの マーク・レイバート(Marc Raibert)氏=写真=もステージに登場して、ロボットの可能性を力説した。「HyundaiとBoston Dynamicsは、ロボットが単なる機械ではないという基本的な理念を共有している。両社が協力することで、安全性、生産性、生活の質を向上させることができ、とても有意義で信頼できるパートナーだ」。Boston DynamicsのSpotは、ハイテクセンサーを搭載した4足ロボットで、2021年9月からHyundai Motor グループのKIA(起亜自動車)の自動車工場に安全管理のために配備されている。

 Boston Dynamicsは、Spotのほか、物流ロボット「Stretch(ストレッチ)」、人型ロボット(ヒューマノイド)の「Atlas」アトラスの3モデルのロボットを扱っている。
 Stretchは、倉庫施設と配送センター向けに設計された実用的な商用ロボット。アーム先端のスマートグリッパーを使って、上部または側面から荷物をつかむことができる。トラックの積み荷を降ろしたり、パレットに荷物を積み込んだりすることができる。
 Atlasは、五段跳びをしたり、平均台の上を走ったり、2連続のバク転をできることが、プロモーション動画で知られている。現時点では、まだ研究開発段階にあり、テクノロジーデモに使われている。
 「私たちのロボティクス・テクノロジーは、人類に前例のないモビリティをもたらすだろう。これまで人が立ち入れなかった場所にも入ることができ、人類の到達領域を広げることだろう。深海や自然災害地域へ、人類を代表して、Spotなら送ることができる。Spotは、人とロボットのパートナーシップの始まりとなったチェルノブイリと福島(原子力発電所)にも送られた。Spotは、放射線に耐える必要があり、チェルノブイリでは放射線センサーを備えた2台のSpotが、原子炉サイト周辺の検査をするのに役立った。廃墟となった福島原発には、実験に失敗したロボットのスクラップヤードがあると言われている」
 Boston Dynamicsは、他の惑星を探索するためのロボティクスにも力を注いでおり、すでにNASA(米国航空宇宙局)ジェット推進研究所と協力して、この夢の実現へ走り出している。

ロボットをメタバースに接続して現実と仮想の間を自由に移動

 ブレスブリーフィングの後半では、Hyundai MotorグループでTaaS(Transportation-as-a-Service)部門を統括するプレジデントのチャン・ソン(Chang Song)氏やBoston DynamicsのCEOのマーク・レイバート氏のほか、Microsoft(マイクロソフト)でCloud + AI部門のコーポレートバイスプレジデント兼ディスティングイッシュトアーキテクト(Distinguished Architect)であるウルリッチ・ホマン(Ulrich Homann)氏の3人と進行役=写真=がステージにそろい、メタバースとメタモビリティについて語り合った。「Hyundai とBoston Dynamicsは、ロボットと人が協力して生産現場の安全性を向上させ、広く生活の質を改善する未来を思い描いている。コンパニオンロボットのビジョンを達成するために、私たちはあらゆる地形を想定して、その運動知能、バランス能力、階段昇降など、高い移動能力を実現する必要がある」(マーク・レイバート氏)

 スマートファクトリーをメタバースに接続することについても話題になった。HyundaiのパートナーでもあるMicrosoftのウルリッチ・ホマン氏は、Azure IoTクラウドツーエッジおよびデジタルツインスタックのほか、Microsoft Azure 上に構築された複数人で3Dスペース、3Dコンテンツ を共有できる没入感の高い Mixed Reality (複合現実) プラットフォーム「Microsoft Mesh」など、スマートファクトリー・アプリケーションを構築するために、MicrosoftのIoTプラットフォームレイヤーが、リモート(遠隔操作)によるコラボレーション・プロジェクト向けに設計されていると語った。
 「私たちは、工場のフロアの様子をただ監視するだけではない。例えば、米国や韓国のほか、どこにいても、工場の作業員の作業に加わって、ロボットと工場機械が一緒に作業をするようできる可能性がある」
 Microsoft Cloud for Manufacturing(マイクロソフト・クラウド・フォー・マニュファクチャリング)は、リモートで製造ロボットを制御するためのゲートウェイとして利用することができる。具体的には、外出先からメタバース上の自宅のデジタルツインにアクセスしてアバターロボットを使うことで、韓国にいるペットに餌をあげたり、抱きしめたりすることができるという。VRを通じて現実世界の体験まで楽しむことができるようになった。
 「仮想環境と物理環境が融合するなかで、Microsoftは、人、場所、モノをデジタル世界と結びつけている。Azure IoTからAzure Digital Twins、Dynamics 365 Connected Spaces、Microsoft Meshまで、Microsoft Cloud全体で、組織のためのメタバースプラットフォームを構築し、工場などの物理空間における人びとの動きや交流の方法について、新しい視点を実現している」(ウルリッチ・ホマン氏)
 メタバースとロボットを接続することにより、スマートファクトリーなどの現実の世界でロボットを誘導することができるようになる。作業者は、VRインタフェースとハンドコントロールを介して、メタバースのロボットアバターと対話し、遠く離れた作業現場のプロキシロボット(代理・中継ロボット)を使用して、現実世界の物ごとを操作できるのだ。
 Microsoftは、すでにHyundaiなどの自動車メーカーと共同で、Azure Cognitive Services for speechの機能であるテキスト読み上げや音声・テキスト変換を使って、音声による新たなドライブ・エクスペリエンスをつくりだしている。このソリューションは、表現力のある音声でテキストを読み上げるだけでなく、グローバルな言語に対応し、各企業のサービスに合わせたカスタマイズができる。
 CES2022の米Qualcomm(クアルコム)のプレスブリーフィングでは、QualcommとMicrosoftの両社がAR分野で提携したことを発表している。この協業により、軽量で省電力のARグラスを実現するため、カスタムARチップの開発に加えて、 Microsoft Mesh とQualcommのAR開発プラットフォーム 「Snapdragon Spaces (XR)」(2021年11月発表) をARチップに統合していく計画も示された。

メタモビリティでは空間・時間・距離の制限がなくなる

 Hyundaiは、メタバースが将来的に人びとの日常の空間となり、現実との区別がなくなり、これまでのVRの概念から脱却することによる新たな形態のメタバースプラットフォームの出現の可能性をにらんでいる。
 「技術的な限界のために仮想体験でしかなかったものを、スマートデバイスの接続を通じて、現実の世界に反映できるようになり、ユーザーは2つの世界の間を制限なく自由に移動できるようになった。Hyundaiは、メタモビリティなどの体験の概念を定義している」(チャン・ソン氏)
 仮想空間に接続するクルマでは、ユーザーがさまざまな車内VR体験を楽しむことができるようになる。ユーザーのニーズに応じて、クルマをエンターテインメントスペースにするだけでなく、仕事の会議室、さらには3Dビデオゲーム・プラットフォームに変えることができるのだ。
 「メタモビリティでは、空間、時間、距離がすべて無関係になるということだ。ロボットをメタバースに接続することで、現実世界と仮想現実の両方の間を自由に移動できるようになる。メタバースが提供する没入型の存在するプロキシ・エクスペリエンス(代理経験)からさらに一歩進んで、ロボットは私たち自身の物理的感覚の延長となり、メタモビリティで日常生活を再形成し、豊かにすることができる」(チャン・ソン氏)
 Hyundaiは、ロボットを現実世界と仮想世界の間の媒介として使用するメタバースを想定しており、メタバースとロボットの接続を通じて、人びとが現実世界の物ごとを実際に変化させ、変換できるようにしていくことを描いている。

 LVCC(Las Vegas Convention Center)のウエストホールのHyundaiの巨大ブース(1200平方メートル)でも、「Expanding Human Reach(人間の到達領域の拡張)」をテーマに、自動車ではなくロボットと次世代モビリティが主役となった。ロボティクスとモビリティを融合されたアプリケーション・コンセプトモデルとして、パーソナルモビリティ、サービスモビリティ、ロジスティクスモビリティ、L7など、プラグ&ドライブモジュール(PnDモジュール)プラットフォームを使用した合計4事例を出品した。このうち、パーソナルモビリティ=写真=は、4つの5.5インチPnDモジュールを備えたプラットフォームベースのアプリケーション。円筒形のフォームファクターに収納され、移動用の車輪が一輪だけついたPND(Personal Navigation Device)である。サイズは、幅133cm、長さ125cm、高さ188.5cm。この移動体(PBV:Purpose Built Vehicle)は、1人の乗客にラストワンマイルの機動性を提供する。ロータリー開閉方式でスペースを有効活用できるように構成されており、シート右側のスマートジョイスティックを操作して、ハンドルやペダルを使わずに移動ができる。展示ブースでは、韓国の7人組男性ヒップホップグループであるBTS(防弾少年団)の「IONIQ:I'm on it」の楽曲に乗って、3体のSpotによる一糸乱れぬダンス(約20分)を披露した。

 Hyundaiは1967年に設立。現在、200カ国以上に拠点を置き、約12万人の従業員を抱える。ブランドビジョンとして、「Progress for Humanity(人類のための進歩)」を掲げている。 2020年10月にHyundai Motorグループの事実上トップの会長に就任したのがチョン・ウィソン氏。Hyundai創業者であるチョン・ジュヨン(鄭周永)氏の孫にあたる。就任後、伝統的な自動車会社から未来型モビリティ企業への移行を加速させている。2040年までに内燃機関自動車の販売を停止することを発表しており、電動化、自律走行、水素、ロボットなど未来の新事業を強化している。グループ事業について、自動車50%、UAM(Urban Air Mobility)30%、ロボティクス20%とする計画を打ち出している。

韓国DeepBrain AIからデジタルヒューマンが接客する「AI Kiosks」

 CES2022においては、AI(人工知能)を使った接客システムも話題となった。韓国のAIソリューション企業のDeepBrain AI(旧Moneybrain)は、デジタルヒューマンである「AIヒューマン( Human)」が接客する「AI Kiosks」=写真=やSaaS(Software as a Service)ソリューション「AI Studios」を出展した。AI Kiosksは、AIとリアルなアバターを組み合わせたAIヒューマンと、高音質オーディオ搭載のフルHDディスプレイを介して、インタラクティブな会話・接客ができるシステム。韓国STAR Labsが2021年のCESで発表したデジタルヒューマン搭載の大型ディスプレイ「NEON Frame」に似ている。数千のシナリオを組み入れており、人間とリアルタイムで対話でき、さまざまな情報提供やガイドをする。AI ヒューマンは、さまざまな人種や言語の実際の人間に基づいており、実在の人物のように見える。韓国Arirang TVとの提携の一環として、1月6日にはCES2022のDeepBrain AIのブースで、Arirangテレビ局のプリンシパルアンカーであるムーン・コニョン(Moon Connyoung)氏が自身そっくりのAIアンカーと対面して対話するデモも実施した。

 DeepBrain AIのAIヒューマンソリューションとしては、元韓国検事総長で大統領候補のユン・ソギョル(Yoon Suk-yeol)氏のAIヒューマンが、韓国国民の力党・中央選挙対策委員会の発足式に登場して、その能力の高さを披露している。
AI Kiosksとして、カード決済リーダーや順番待ち発券機など、充実したオプションやアクセサリーも用意されており、さまざまな業界の接客業務に導入できるとしている。ショップアシスタントとして、顧客のショッピング体験を新たにして、買い物や支払いのプロセスなどの案内ができる。すでに、韓国のセブン-イレブンやKBバンクのほか、ケーブルオペレーターのLG HelloVision (LG HV)、ヘルスケアのRoche(ロシュ)などの企業で使用されている。
 同時に発表されたAIヒューマン作成ツール「AI Studios」は、CES2022 Innovation Awardを獲得した。これは、AIヒューマンを用いた動画コンテンツが作成できるソフトウェア。スタジオや撮影設備、出演者などを確保する手間やコストを削減できる。
 DeepBrain AIは、ディープラーニングベースのビデオ合成と音声合成のソーステクノロジーを開発している。そのため、AIアナウンサー、AIアンカー、AIバンカー、AI教師、AIホスト、AI相談員、AIコンシェルジュ、AI医師、AI弁護士、AIバンカー(銀行員)、AIコンシェルジュなど、さまざまな業務分野に実装できるとしている。
 韓国では、デジタルヒューマンの利用が進んでおり、ニュースを報道するAIアンカーや大手コンビニの接客係のほか、選挙キャンペーンにも利用されている。

スイスAnimaticoからはAIキャラクターによる接客システム

 スイス連邦のAnimaticoは、CES2022において、AIキャラクター(アバター)と音声認識・制御を組み合わせて、顧客とシームレスな対話ができる接客システムを出展した。 ディズニーに強く影響を受けた創業者が、キャラクター性の高いアバターを使い、動作やジェスチャーを交えて、直感的で人間味のある方法で会話しながら、顧客体験(CX)の向上や顧客とのエンゲージメントを目指している。ディスプレイのカメラで、アバターが顧客を自動認識し、顧客からの問い合わせや質問に回答したり、商品の説明や要望にあったプランをレコメンド(推薦)したりする。最初にシステムを導入したのが、スイスのモースゼードルフにあるショッピングモール「Shoppyland」にある旅行代理店のTMI。ここでは、AIキャラクター「トム(Tom)」=写真=が、仮想の旅行コンサルタントとして接客している。トムは、旅行プロバイダーのHotelplan SuisseやTMIとの協力を得て、設計から開発に3カ月をかけて実装された。顧客は、ディスプレイに表示されたQRコードをスマートフォンでスキャンすることで、希望する旅行カタログや旅行計画書などのドキュメントをダウンロードできる。電子メールアドレスを知らせれば、そこに送信してくれる。

トムは、顧客の休暇に行きたい場所や目的地についての情報やアドバイスを提供し、カタログが必要であれば提示し、COVID-19パンデミック時の各国の入国規制に関する情報も提供できる。トムが応対しきれないときや顧客が懸念するときは、適切な部門に転送する。
 トムの導入は、Hotelplan Suisseのパイロットプロジェクトであり、この導入がうまくいけば、Hotelplanの他の支店にも設置する計画。Animaticoは、2019年にスイスのチューリッヒにあるスイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETHZ)からスピンオフしたグループによって設立。インテリジェントなアバターと音声制御を組み合わせて、企業が顧客とスムーズに交流できる方法を開発している。

イスラエルGKI GroupからAIを搭載したロボットバーテンダー

 イスラエルのGKI Groupは、CES2022のEureka Parkのイスラエル・パビリオンに出展し、カクテルを作ることができるAI搭載のロボットバーテンダー「Cecilia.ai」=写真=を出展した。これは、音声アシスタントとアニメーション化されたアバターを組み合わせて、対話形式の映像バーテンダーを使ったロボット。ディスプレイ上に女性のバーテンダーが表示され、注文すれば、1時間に最大約120杯のカクテルを作ることができる。顧客が長めの会話をしたり、バーテンダーを口説いたりすると作れるカクテルの数が減るという。高さは約8フィート(約3.5m)、機械の底にある収納スペースに最大70リットルのドリンク類を保管できる。スクリプトやデザイン、カクテルメニューは、顧客のニーズに合わせてカスタマイズすることができる。プラグ&プレイで簡単に設置できる。ホテルやクルーズ船、VIPラウンジ、大規模イベントなどで、1日に数千杯のカクテルを作ることができるという。

 このようにCES2022においては、COVID-19の世界的な広がりを受けて、ソーシャルVRのメタバースやデジタルヒューマンやアバターによる接客システムといったように、非接触、リモート、オンラインによるシステムが、昨年に引き続き目立った。
 ヘルスケアや医療・治療においてもリモート化が進んでおり、中央集中型から分散型へ、共通・共用からオンデマンドやパーソナライズへの流れが加速している。
 次回は、ユーザーの生活形態や要求に合わせて変化するヘルスケアや医療などについてもレポートする予定。

<つづく>

 (清水メディア戦略研究所 代表)