コラムCOLUMN

コロナ禍に起きたテックトレンド DXとSXの融合が急速に進展

海外動向

清水 計宏

非接触サービスとテクノロジーがさらに進展

 2021年は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックの中で明けるという特異な年となった。年明けに開催されたCES 2021もフルデジタル開催で、すべてがオンラインに移行し、2020年から2021年にかけては、将来に向けたターニングポイントになることは、だれしもが肌で実感したことだろう。
 2021年半ばを過ぎても終息時期が不確かな災禍のなかで、国や企業・組織の弱点や問題が顕在化することになった。その一方で、個人と社会、国々が地球環境のサステナビリティにおいてつながり、DX(Digital Transformation)とSX(Sustainable Transformation)が急ピッチで進み、その交差領域が広がった。
 振り返れば、2020年は感染症の拡大を防ぐ安全上の懸念からテレワーク/リモートワーク、リモートラーニング(遠隔学習)、テレヘルス/テレメディシン(遠隔診療)をはじめとするリモートソリューションと仮想コミュニケーションが短期間に世界中に広まった。在宅勤務、ワーケーションだけでなく、副業から小売サプライチェーンまで、さまざまな業務やサービスにおいて非接触の代替手段が現れた。実空間と仮想空間、電子空間の境界もシームレスになった。こうしたことは、2021年以降も続くことになるだろう。
 これまで日本において、副業や在宅勤務、リモート会議、オンライン教育に対してはいまひとつ進まず、及び腰のところも多かったが、必要に迫られて受け入れざるを得なくなり、導入が加速した。感染症の拡大という、いわば外的な要因でリモートワークやオンラインの利用が急拡大した。
 ここでは、2020年から急浮上したテクノロジーを振り返りながら、最近のテクノロジー・トレンドを展望していきたい。これが第1回で、連載していく。
 いまのコロナ禍にあって、一人ひとりの身体と心と感情の健康とヘルスケアへの気遣いが強くなっており、2021年も引き続き身体的・精神的な健康を高めるサービスや製品のニーズと需要が強まっている。

AIと5Gで実用化時代に入ったドローン配送

 こうした中で、非接触のサービスと関連テクノロジーの開発は加速している。EC(Eコマース)の配送・宅配だけでなく、決済も電子決済、仮想通貨、暗号通貨などで非接触が進み、自動化とデータ取得のためにロボットやAI(人工知能)の採用、5G(第5世代移動通信システム)の普及、ブロックチェーンの応用が進んでいる。
 利用が急増しているUber Eats(ウーバーイーツ)、出前館、menu(メニュー)のほか、Grubhub(グラブハブ)、Door Dash(ドアダッシュ)、Instacart(インスタカート)、Uber Eatesの傘下に入ったPostmates(ポストメイツ)、Deliverloo(デリバルー)、Delivery Hero(デリバリー・ヒーロー)、Lalamove(ララムーブ)、Swiggy(スウィッギー)といったフード宅配(デリバリー)サービスにおいて、物理的な接触を最小限に抑えたいという顧客の要望により、ドロップオフ配送オプションが一般化している。
 その一つが、アイスランド・ダブリンを拠点に、欧米展開を目指すドローン・デリバリー・スタートアップのManna(マンナ)に代表される自動配送である。Mannaは、レストランやオンライン・デリバリープラットフォームに対し、オンデマンドで全自動ドローンを貸し出すB2B向け"Drone Delivery as a Service"の提供を始めている。
 Mannaが、1日に実施している宅配は50~100件。地元レストランチェーンと提携したりして、食品とドリンクをドローンで運んでいる。アイルランド西海岸にある港湾都市ゴールウェイの住民は8万人いるが、そのうち1万人がドローン宅配サービスを利用している。しだいにサービス地域を広げており、2021年7月までに10万人にサービス提供を計画している。2021年第2四半期には米国に進出し、2023年までに世界展開を計画している。Mannaは、デンマークのオンライン食品注文・配達サービスのJustEat、米国のアイスクリームのブランドのBen & Jerrys(ベン&ジェリーズ)、英国の食料品チェーンTesco(テスコ)のほか、サムスン・グループとも提携しており、着々と業務拡大の準備を進めている。
 ドローン配送は、米Amazon.comのPrime Air(プライムエア)が先陣を切ったことで知られている。Prime Airプロジェクトは2013年に始まり、2019年6月からはテスト配送を開始。同年8月には、米連邦航空局(FAA)から無人航空機システムを扱う航空会社として認証を取得した。この自動飛行のできるドローン配送に欠かせないのがAIであり、AIの進歩によって身近なものになってきた。
 5Gの普及も起爆剤になっている。米国で携帯電話の加入者数で首位のVerizon(ベライゾン)と傘下のドローン管理のベンチャーのSkyward(スカイワード)は、米連邦航空局(FAA)によって認定されたドローン配送会社のUPS Flight Forward(UPSグループ)と協力して、2020年に4G LTE接続されたドローン配送の実証実験に着手。ドローンが飛行する高度でのモバイル通信の信頼性とパフォーマンスを実証している。2021年に米フロリダ州ビレッジ地区において、5Gによるドローン配送の実証実験を開始した。

 「5Gによるエッジコンピューティングの低遅延は、特にドローン、トラック、飛行機などの自律稼働するロジスティクスハブの運行を監視するのに理想的だ。5G Ultra Widebandで実証実験をすることにより、UPSとのコラボレーションをさらに進めていく」  Skywardの社長に就くMariah Scott(マリア・スコット)氏は、CES2021でVerizonのCEOに就くHans Vestberg氏の基調講演に登場し、5Gがロボット、ドローン、配送車を機動的に稼働させるのに威力を発揮し、世界を変えていくことを強調した。  5Gには、これまでの4Gの10倍で4GB超のピークスループットが可能になり、アップロード、ダウンロードスピードが格段に上がる。モバイルデバイスから5Gネットワークの端(エンド)までのエンドツーエンドのデータ遅延は100分の5秒という超低レイテンシー(遅延)で、遠隔手術も可能となる。1平方キロメートル当たり最大100万台の接続デバイスをサポートし、 時速500km(約310マイル)まで移動するモバイルデバイスでも接続を維持できる。エネルギー効率やネットワークスライシング(ネットワークを仮想的に分割する技術)、スループット(時間当たりの処理量)に優れ、信頼性も高い。5Gの特性がブレイクスルーを起こしているのだ。

 UPSは、2019年にUPS Flight Forwardを開設しており、2021年1月までに3800回以上のドローン配送を実施した。2020年のCOVID-19のグローバルパンデミックの中で、医療品・薬剤など迅速な配送・配達が求められ、ドローン配達のニーズは急増した。自宅にいる高リスクの高齢者らに、迅速で非接触な配達オプションが提供できるからだ。5GとAIの組み合わせは、ドローン配送を一箇所で集中管理するには欠かせないテクノロジーになっている。  世界規模の物流・配送企業であるUPSのCEOに就くCarol B. Tome(カレン・タミール)氏=写真=も5Gに熱い期待を寄せている。  「私たちは、複数のドローンを同時に飛行させ、集中的な場所から派遣し、安全な環境で動作するように、管理・サポートする能力が必要になる。VerizonやSkywardと協力して、これを大規模で運用するには、5Gの力が不可欠になる」

 ドローン配送は、医療業界のラボ標本、がん患者用輸血キット、救命薬などの輸送時間を短縮するのにとても有効であることを実証した。ここで利用されているドローンは、Connected Drones(コネクティッド・ドローン)と呼ばれ、文字通り通信網に接続し、AIで制御されている。
いまやドローンは、配送や撮影、農薬散布だけでなく、米西部地域で発生した史上最大級の大規模な山火事に直面したときは、通信インフラの状況を把握するにも役立てられており、利用範囲は広がっている。

フードデリバリーでもAIは必須に

 ドローンだけでなく、デリバリーロボットや自動運転車による自動宅配サービスも同時並行で進展しており、ここでもAIは必須のテクノロジーになっている。
 米Skypeの共同創業者であるAhti HeinlaとJanus Friisの両氏が米カリフォルニア州サンフランシスコに設立したStarship Technologies(スターシップ・テクノロジーズ)は、自律走行するデリバリーロボット(配達ロボット)「Starship robot」=写真=を使い、迅速に低コストで宅配するサービスで人気を集めている。
 ロボットは運搬物が入れて運ぶことのできる6輪の車輪の付いたカート形態で、カメラ、センサー、制御システム、通信機器、LED、電動バッテリーを内蔵する。通常の宅配費の10の1レベルまで圧縮でき、環境と生態系へのリスクを減らせるため、グリーンであることも長所として挙げている。スマートフォンの専用アプリで注文・決済ができ、料理や食料雑貨などを指定した場所までに届けてくれる。荷物受取人は配達行程をリアルタイムで確認もできる。

 2020年に、アリゾナ州立大学、オハイオ州立ボーリンググリーン大学、バージニア州ジェームズ・マディソン大学などの大学のキャンパスやいくつかの地域で、Starship robotを数百台運用し、2021年には100のキャンパスで稼働することを目指している。ボーリンググリーン大学では、キャンパスの近くにスターバックスがあるため、コーヒー、ドーナツ、パンダエクスプレスといった商品の配達が増えたという。COVID-19パンデミックもあり、2021 年 1 月に 100 万件の配送を達成し、2021年5月には配達件数を前年から4倍に増やし、グローバルで150万回のマイルストーンを達成したことを発表している。
 また、ミシガン大学発のスタートアップであるRefraction AIは、自律走行自転車「REV-1」を使って、宅配サービスを手がけている。顧客は、専用Webサイトで注文すると、Refractionの従業員が店舗で車両に商品を積み込むと、受取人にはテキストメッセージが送信される。そこには、到着時に収納コンパートメントを開くためのコードが添付されている。提携する複数の小売業者から半径数マイル以内にいるところ配達の依頼ができる。Refractionは、2019年7月にミシガン大学の教授であるMatt Johnson-RobersonとRam Vasudevanの両氏によって共同設立されたスタートアップ。

 このほか、ソフトバンクが出資している自動運転車メーカーのNuro(ニューロ)も宅配サービスでは注目株。米連邦政府から無人運転配達車の安全規定適用除外を初めて認められた企業であり、自動運転テクノロジーを食料品の自動宅配のビジネスにいち早く結びつけた。自動配送では、Nuroが開発した"R2"と呼ばれる低速電動車が使われている。レストランや食料品店などの業者が近隣の配達サービスに使用している。米国では消費者への自動配達に公道が使われるようになっている。

 2018年初旬に宅配用の小型ロボットとしてR2を公開し、2020年12月にカリフォルニア州車両管理局(DMV)から自動運転車の商用展開許可を取得。自動運転ロボットである低速電動車を小売り大手のWalmart(ウォルマート)やドラッグストア大手のCVS、宅配ピザ大手のDomino's Pizza(ドミノ・ピザ)などの大手チェーン店が採用したり、医薬品の配送に使われたりして、コロナ禍でビジネスを300%拡大させた。
 米運輸省の安全基準適用除外によって、R2はサイドミラー、フロントガラス、前進時にオフになるリヤビューカメラの3つの装備なしに運用が可能。スピードは、時速25マイル(約40km)までしか出すことはできず、現時点では好天時にだけ、最高制限速度が時速35マイル(約56km)の道路しか走れないという制約はある。  Nuroは、Googleの自動運転開発プロジェクト(Waymo)の初期メンバー2人が2016年に創設。米国で最も成功が期待できるAI関連の企業を選び出している2020年度のフォーブスの「AI 50」リストに選出されている。2020年12月には、Apple、Google、Uber Advanced Technologies Groupからのスピンアウトが創設したスタートアップのIke(アイク)を買収した。Ikeは、自動運転トラックの商品化を目指しており、Nuroのローカル配送とIkeの長距離貨物を結びつけようとしている。

 物流関係の自動運転テクノロジーでは、米Amazonの傘下に入ったロボットタクシーのZooxや中国の自動運転トラックスタートアップTuSimpleといった企業も先を争っている。
このように、COVID-19による感染拡大のリスクを最小限に抑えることができるから、ドローンや自律走行ロボットによる商品配送の需要が高まっている。とりわけ最終拠点からエンドユーザーへの物流サービスは、ラストマイルデリバリー(配送)と呼ばれており、著しい成長をみせている。
 米市場調査会社のAllied Market ResearchとInfinitのレポートによれば、この業界のCAGR(年平均成長率)は今後10年間で14%を超え、自律型配送部門は2021年の119億ドルから2031年までに全世界で840億ドル以上へ24%以上成長すると予測している。

<つづく>

 (清水メディア戦略研究所 代表)