コラムCOLUMN

多数の起業家を輩出するイスラエル
世界から技術力で評価されるスタートアップ大国

海外動向

清水 計宏

四国ぐらいの国土に世界有数のスタートアップが誕生

 イスラエルは人口900万人強、面積は2.2万平方メートルと日本の四国程度の狭い国である。それにもかかわらず、「中東のシリコンバレー」と呼ばれ、世界有数のスタートアップ大国として、イノベーションの集積地になっている。毎年、1000~1400社が誕生しており、いまも9000社を超すスタートアップがビジネスを繰り広げている。人口1人当たりのスタートアップ数は世界第1位。人口1人当たりのエンジニア数と科学者数も世界トップクラスだ。

Mobileye:自動運転を可能にするSoCを開発

 イスラエルから生まれたハイテク企業として、Mobileye(モービルアイ)がよく知られている。車両内部のフロントガラス上に単眼カメラを装着する先進運転支援システム(ADAS)から自動運転を可能にするSoC(システムオンチップ)とともにソフトウェア開発で知られている。モービルアイ搭載車両を介して、毎日800万km以上のマッピングデータをクラウドに収集しており、高精度・高精細な地図データベース「Mobileye Roadbook」は高い評価を受けている。2017年に米インテルの傘下に入った。いまや世界を代表する企業に成長している。2022年にはレベル4(L4)の自動運転に特化したAV オン・チップ(AVoC)「EyeQ Ultra」=写真=の製造を開始する計画。このSoCは、1パッケージでEyeQ5 SoC 10個分の毎秒176兆回の演算が可能となり、 乗用車、トラック、SUV(Sport Utility Vehicle)で完全自動運転車に最適な電力性能を提供するように設計されている。最初の生産は2023年末、完全な自動車グレードの生産は2025年となる見通しだ。

Autobrains:自動運転向け自己学習型AIを開発

 Mobileyeと競合しているAutobrains(オートブレインズ:旧Cartica AI)もイスラエル企業。トヨタ自動車のベンチャーキャピタルであるToyota Venturesだけでなく、ドイツの総合自動車部品メーカーのContinental AG(コンチネンタル)や自動車メーカーのBMWグループのベンチャー投資会社、ベトナム自動車メーカーのVinFast(ビンファスト)も出資している。
 Autobrainsは、自動運転向けの自己学習型AIを開発するスタートアップ。このAIは、人間の脳のような学習・情報処理モデルを採用し、リアルタイムでさまざまな意思決定ができるように設計されている。高度な知覚機能を必要とする、込み入ったシナリオにも対応できる。自動運転における「1%の誤差」を解決することを掲げ、「自動運転レベル4」にも耐えうるとしている。

Infinity A R:スマートグラスを開発

 中国Alibaba(アリババ)の傘下に入ったInfinity Augmented Reality(Infinity AR)もイスラエルのスタートアップだった。左右離れた2台のカメラを使い、捉えた画像の差分から現実空間を3Dで取り込み、物体の動きまで捉える技術で脚光を浴びた。Infinity ARは、ARデバイスおよびAR開発者向けのソフトウェア開発キット(SDK)開発に取り組み、2016年からAlibabaの出資を受け、2019年に買収された。現在、Alibabaの先端技術研究機関「Alibaba DAMO Academy (達摩院)」の一環として、コンピュータービジョンやナビゲーションを研究する「Israel Machine Vision Laboratory」に入っている。軽量(85g)のスマートグラス「NrealLight」=写真=やインテルから特許購入して開発した「North」、網膜投影ARグラス「RETISSA Display」などの製品で知られている。

Taboola:広告配信プラットフォームを提供

 広告配信プラットフォームやコンテンツ・リコメンデーション技術を提供する業界トップシェアを誇るTaboola(タブーラ)もイスラエルを拠点している。2006年に設立され、ユーザーエンゲージメントと収益化を促進するAIを導入した推奨技術が特徴。ディープラーニングとオープンウェブ上での顧客のコンテンツ消費パターンによる膨大なデータセットを利用したプラットフォームとサービスは、1万3000社以上の企業に利用され、毎日5億人以上の人びとにリーチしている。日本国内でも、Taboolaが提供する動画広告でリーチできるユーザー数は2022年6月に5300万人を突破した。 2022年3月のNielsen Digitalの調査によると。日本でのTaboolaの動画広告ネットワークでリーチ可能ユーザー数は、スマートフォン(ブラウザ+アプリ)で約5300万人、PCブラウザーでは約1400万人。2022年6月に、ハンガリーを拠点とするITベンダーおよびレコメンデーションエンジン企業であるGravity R&Dを買収している。

Check Point :業界初のファイアウォールを発明

 1993年に設立され、業界初のファイアウォール「FireWall-1」を発明し、多層防御技術でゼロデイ攻撃を検知・防御するCheck Point Software Technologies(チェックポイント・ソフトウェア・テクノロジーズ)もイスラエルの企業としてよく知られている。
 ファイアウォールの市場開拓者であり、接続されているすべてのデバイスへのハッキング、スパイウェア、個人情報盗難を防御する。一部門であるZoneLabsが開発・販売するセキュリティ製品群として、「ZoneAlarm」ソリューションがある。この製品は、もとはZoneLabsが開発していたが、2004年にCheck Pointが買収した。Check Pointはテルアビブに国際本部を置くが、米国、ベルギーを含む38カ国にオフィスを構えている。

Stratasys:3Dプリンター市場でトップシェア

 航空宇宙、自動車、防衛などの要求が厳しい業界向けに設計された3Dプリンターを製造し、世界の3Dプリンター市場でトップのシェアを維持するStratasys(ストラタシス)もイスラエルのスタートアップだった。1988年に米国に設立され、現在、ミネソタ州エデンプライリーとイスラエルのレホボトの2拠点に本社を構える。コロナ禍の2020年に、3Dプリントフェイスシールドの 3Dデータを無料ダウンロードできるようにして話題を集めた。
 Stratasysは、1988年にFDM方式(熱溶解積層方式)による3Dプリンティング技術で特許を取得し、世界で初めて3Dプリンターを誕生させた。FDM方式とは、熱可塑性樹脂を熱で溶融し、ノズルから吐出して層を形成することを繰り返して、一層ずつ積み重ねて造形する方式。このFDM方式による3Dプリンターが、幅広い顧客から支持を受けて、世界のトップメーカーとなった。
 2012年には、当時、業界第3位の競合メーカーだったObjet(オブジェット)と合併。Objetポリジェット(PolyJet)方式の3Dプリンターをラインナップにそろえて、最強のメーカーとなった。
 ポリジェット方式の3Dプリンターは、2Dのインクジェットプリンターに似た構造をしており、ヘッドのノズルからUV硬化性の液体樹脂を噴射し、UVライトで硬化させながら積層してモデルを造形する。噴射する樹脂の粒子が非常に細かいため、表面が滑らかで小さく複雑な形状を造形することができる。そのため、0.1mmの高い精度で14μmの層を作成し、滑らかな表面、薄壁、複雑な形状を実現できる。ゴムから硬質まで、透明から不透明まで、広範囲な材料をサポートしている。
  Stratasysは、申請中のものを含めて、世界中で約600件以上のアディティブ・マニュファクチャリング(Additive Manufacturing:AM)に関わる特許を取得している。 アディティブ・マニュファクチャリングとは、素材を積層してさまざまな形状を作り出すことのできる積層造形技術を用いた製造方式のことを指す。

起業家マインドは困難に挑戦する「Chutzpah精神」から

 イスラエルには多数のスタートアップが存在し、世界市場で勝負をかけている。イスラエルの起業家マインドは、「Chutzpah(フツパ)精神」が困難なことに挑戦して貫徹する力の源だといわれる。「Chutzpah」は、英語でも使われているが、もともとはヘブライ語で「大胆さや」「厚かましさ」を意味する。良い意味でも、悪い意味でも使われる。この精神が、逆境を糧にしながら脅威をチャレンジとみなし、どんなことにも可能性を見出していくパワーの源泉だと言われている。

 そのルーツは、国民の子育ての仕方や教育方法だけでなく、18歳になると、男子は3年間、女子は2年間という兵役があり、身体状態と適性を検査・評価されてIDF(Israel Defense Forces:イスラエル国防軍)の各部隊へ配属されて厳しいトレーニングを受けることとも関係がある。なかでも参謀本部諜報局情報収集部門でエリート諜報部隊でもある「8200部隊」でスキルを磨いた人は、退役後にもテクノシロジー業界で必要とされ、活躍する人が多くなっている。特に優れた資質の若者から約50人選抜され、3年間技術エリートとなるため、タルピオットプログラム(Talpiott Program)というエリート養成トレーニングを受けることになる。この人たちは「Talpion(タルピオン)」とも呼ばれている。こうした経緯については、『起業家精神のルーツ CHUTZPAH イスラエル流"やり抜く力"の源を探る』(著者・インバル・アリエリ、訳者・前田恵理、発刊・CCCメディアハウス)=写真=に詳しく書かれている。

 ここでは、内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)にも関係する分野で技術開発をしているスタートアップをクローズアップする。

Kardome:騒々しい環境も複数の話者を同時認識できるAIを開発

 2019年にイスラエル中部のテルアビブに設立されたKardome Technology(カルドメ・テクノロジー)は、騒がしい環境でも、複数の人の音声を同時に聞き分けるAI駆動のスピーチ・クラスタリング技術を開発している。すでに特許取得済み。音声認識や音声処理の技術では、話者のスピーチをセグメンテーションして、クラスタリングすることがフロントエンド処理として必要になるが、ここにAIを導入した。

走行中の自動車や展示会場、操業中の工場、混雑したカフェ、フードコートでのウェブミーティングなど、風切り音や背景音が響いていて、音響的に困難な状況下でも、個人の声に焦点を当てて、話者を分離できるマルチユーザー音声テキスト・アルゴリズムで高い評価を得ている。AIにより、音源を分離し、ノイズを低減することで、ハードウェアに依存せず、既存のアーキテクチャーに組み込むことができるため、あらゆるデバイスに統合できる。米Amazonが運営するAlexa Fund(総額2億ドル)から出資を受けたほか、韓国Hyundai Mobility(現代自動車)からは、オートモーティブ向け次世代HMI(ヒューマンマシン・インタフェース)として有望視され、戦略的投資を受けている。また、韓国LGグループの携帯通信大手であるLG Uplusは、2021年10月から同年末までに、コロナ禍の消費者の衛生上の懸念に対処するため、店舗のキオスク端末(写真)2000台に音声制御によるタッチレス(非接触)ソリューションとして導入した。

 この音声を聞き分けるAIは、周囲の環境に影響を受けることなく、同時に何人でも複数の話者を聞き分けることができる。特定の発話者の音声も抽出できる。
 コロナ禍では、VUI(Voice User Interface)によるタッチレスソリューションへのニーズが高まっており、自動車やキオスク端末、家電製品への組み込みが始まっている。
 2022年1月に米ラスベガスで開催されたCES2022においては、創立70周年の米Knowles Electronics(ノウルズ・エレクトロニクス)のオートモーティブ・グレードのMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術によるマイクロフォン「SiSonic MEMS」を使用し、自動車の車内で人びとが同時に会話するシーンを再現して、それぞれの声を聞き分けるデモを実施した。採用されたマイクは、車載用電子部品信頼性の規格化団体であるAEC(Automotive Electronics Council)が定めた規格に準拠。
 デモでは、運転席と助手席の2人が同時に発話しても聞き分けるだけでなく、前席と後席の4席から同時に発話しても認識する事例のほか、意見が飛び交う会議中にプロジェクターを音声で操作するケースなどを実施した。
 一般的に、デジタル化された音声信号をテキストに変換する自動音声認識(ASR:Automated Speech Recognition)エンジンは、VUIのパフォーマンスに直接影響を与えることになり、ASRが音声信号を正確に変換できるかどうかは、入力信号をASRの要件に合わせることが求められる。このため、ノイズ・リダクション、エコー・キャンセレーション、ソース・セパレーションなどのコンポーネントがVUIに追加されて、ASRの前工程で信号を強化する。
 Kardomeのコア技術には、あらかじめ音声分離・雑音除去(SSNR)モジュールが含まれている。これにより、雑音の多いシナリオや複数の話者がいるシナリオでも、信頼性の高いASRのパフォーマンスを促進することができるという。

D-ID:1枚の写真からビデオ作成できる企業向けソリューション

 テルアビブに本拠を置くAI企業として、D-ID(ディーアイディー)も興味深い技術を開発している。最新のサービスとして、単一の画像を使用して、トレーニングと社内コミュニケーション用ビデオを短時間に作成できる企業向けソリューション=写真=を2022年6月に発表した。D-IDは、 ディープラーニングを使用して、1枚の写真からビデオやアニメーションを生成できる技術(特許取得済み)により、「CreativeReality」と呼ばれる製品・サービスを提供している。これにより、ビデオを制作する時間、手間、コストを大幅に削減し、eラーニング、企業トレーニング、マーケティングコミュニケーション(マーコム)、AIアシスタントなどの領域で、用途に応じたカスタマイズされたメディア作成を可能にしている。企業向け用としては、画像にテキストやオーディオファイルを組み合わせて、写実的なアバターやデジタルヒューマンを生成し、それを動かすことで、トレーニングビデオなどを簡単に制作することができるサービスがある。操作ボタンをクリックするだけで、AIが顔の写真から高品質なリアリティのあるビデオに変換し、音声やテキストを統合して、プレゼンテーション動画に仕上げることができる。

 D-IDのAPIは、何万ものビデオでトレーニングされたニューラルネットワークを利用しており、顔写真を動かすことができる。このソリューションでは、すでにあるストック画像のほか、チームメンバーやスポークスパーソンの写真など、正面を向いた顔写真を使用する。
 D-IDの技術が広く知られるようになったのは、家系図サービスを手がけるMyHeritageが2021年から提供している「Deep Nostalgia」と呼ばれるサービスに使われているからだ。これは、すでに亡くなってしまった祖先や家族、親類の写真を動画にすることで、まるで頷いたり笑ったりしているように見えるようになる。

参照:https://www.myheritage.jp/deep-nostalgia

 2022年3月にMyHeritageがサービスを開始した「LiveStory」でもD-IDの技術が採用されている。これは、肖像の表情や口元を動かし、AIを利用して生成した音声を組み合わせることで、自身の人生を語っているように見せることができる。祖母の肖像写真が動きだして、生まれ育った場所、伴侶との出会い、結婚式、家庭、子供などについて、関係する写真を映しながら話してくれる。
 LiveStoryの利用に際しては、MyHeritageのウェブサイトかアプリにアカウントを作成して、人物写真をアップロードし、テキストを入力すればいい。そうすれば、AIが人物の表情を動かし、テキストを読み上げてくれる。声の選択肢には、31言語、数十の方言、数百の合成音声が用意されている。故人が生前に残した声の録音データをアップロードして使うこともできる。
 MyHeritageのサービスを利用していて、すでに家系図を作成したユーザーであれば、以前にアップロードした写真からLiveStoryを作成することもできる。この場合、LiveStoryが家系図の情報を利用して、合成音声によるナレーション入りの動画を自動的に生成してくれる。ユーザーはオプションとして、写真の追加やテキストの編集により、動画をカスタマイズできる。LiveStoryを利用して作った動画は、サイトで視聴するだけでなく、ダウンロードもできる。ソーシャルメディアに投稿して、友人や家族と共有することもできる。MyHeritageのサービスでは、DI-Dはすでに1億を超えるアニメーションの生成をサポートしてきた。
 D-IDは2021年11月に、メタバース向けのAI、AR/VRアプリケーションを開発するために、VR/ARプラットフォームを手掛ける米ニューヨークに本拠を置くThe Glimpse Groupと提携した。最初のテストドライブとして、概念実証(PoC)で協力し、D-IDの技術とGlimpseの子会社であるPostReality(www.postreality.io)のソリューションを利用して、ユーザーがデバイス上で静止画を簡単にアニメーションにすることを可能にした。
 D-IDは、シードアクセラレーターのY CombinatorやAXA(フランスの保険・金融グループ)のほか、Pitango、Foundation VC、Maverick Ventures、AI Allianceといったベンチャーキャピタルなどから2300万ドルの資金提供を受けている。

Hi Auto:唇の動きを捉えて精度の高い音声認識技術を開発

 イスラエルの音声認識スタートアップに、唇の動きを捉えて音声を認識するHi Auto(ハイオート)がある。この音声認識システムは搭載したカメラで話者の唇の動きを撮影するのが特徴。これをディープラーニング・アルゴリズムを利用して、話者の会話だけを抽出する。騒がしい車内やカフェにおけるウェブ会議などでも、雑音を遮断して話者の音声だけを拾うことができる。
 一般的にスマートスピーカーでは、テレビの音声に誤って反応してしまうことがある。Hi Autoでは、テレビやオーディオ機器がコマンドに似た音声を発しても、話者の音声だけを聞き分けることができる。

 この技術は社会への実装が始まっている。例えば、全米に900以上の支店を持ち、ダブルドライブスルー(車が並ぶレーンが2本)のレストランチェーンであるCheckers & Rally's(チェッカーズ&ラリーズ)=写真=は、Hi Autoの音声認識ソリューションを採用して、AIベースのスマート仮想アシスタント(デジタルヒューマン)を使って、ドライバーからの注文を受け付けている。  深刻な人手不足に対応するため、全米の267店から導入を始めた。具体的には、Hi Autoが開発した音声認識技術を採用した米Presto製のタブレット=写真=を使い、ドライブスルーレーンのドライバーからの注文を受け付ける。その内容を理解して伝達するだけでなく、仮想アシスタントが追加注文を促している。いやわるアップセル(アップグレード)も自然言語(人間の声)で自動でこなしている。

 深刻な人手不足に対応するため、全米の267店から導入を始めた。具体的には、Hi Autoが開発した音声認識技術を採用した米Presto製のタブレット=写真=を使い、ドライブスルーレーンのドライバーからの注文を受け付ける。その内容を理解して伝達するだけでなく、仮想アシスタントが追加注文を促している。いやわるアップセル(アップグレード)も自然言語(人間の声)で自動でこなしている。  注文を受けると、それを音声でキッチンに送信する。注文受付の正解率は95%だという。予め複雑なメニューを学習しており、顧客と会話し始めると、すぐに相手の注文商品に合わせて、それにふさわしい追加のドリンク類やオプションを提案する。

 調査によれば、従業員の場合は注文の約10%に対して、顧客の単価を向上させるアップセルをしているのに対し、Hi Autoのシステムでは注文の約70%に対してアップセルをしていることが分かった。レストランのコスト構造は、主として固定費が多くを占めるため、このアップセルは即座に収益に反映される。
 Hi Autoシステムは、自動音声ボットを使用してドライブスルーで注文を受け付けることで、既存の従業員はより人を必要としたり、人への依存率の高い職種に配置換えして、顧客のエクスペリエンスを向上させることを重視している。同システムは、疲れることなく、礼儀正しい言葉遣いで、アップセルを推奨することを忘れないため、有効性を発揮しているという。
 米国のレストランチェーンは、現在、深刻な労働力不足に直面している。米労働省労働統計局(BLS)のデータによると、2021年11月には92万人の従業員がレストランやホテルでの仕事を辞めている。これまで2021年8月が86万7000人と最高値だったが、これを越えるようになっている。
 毎月数十万人に及ぶ就労者がレストラン業界から失われており、こうした労働力不足に対処する方法として、Hi Autoのようなシステムは業界の関心を集めている。
 Checkers & Rally'sにとどまらず、全米10大レストランチェーンに数えられる他の2社でも、Hi AutoのAIソリューションの性能と効果測定のため、パイロット試験を始めている。コロナ禍の影響もあり、ドライブスルーによる売上額は、チェーン店の総売上の60%から70%を生み出すチャネルになっているという。
 Hi Autoは、2019年に現会長に就くZohar Zisapel氏とともに、IDF(イスラエル国防軍)の軍事情報局特殊作戦部の秘密技術ユニット(Unit81)の経験を持ち、Googleでの経歴もある現CEOのRoy Baharav氏、さらに現CTO(最高技術責任者)のEyal Shapira氏の3人によって、テルアビブに設立された。現在、40人の従業員を抱えており、その大半がテルアビブの開発センターで勤務している。

<つづく>

 (清水メディア戦略研究所 代表)